すみませぬ、完全に読まず嫌いしてました。
だってだってだってミュージカルになって舞台になってと2.5次元になる漫画ってアレなんでしょう?
イケメンがいっぱい出てきていつまでも解決しない問題をイケメンがキメるだけでしょう?
ごめんなさい、超面白かったです。
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2018年「第13回 全国書店員が選んだおすすめコミック」一般部門2位
Contents
「憂国のモリアーティ」あらすじ
時は19世紀末、大英帝国最盛期のロンドン──。 この国に根付く階級制度に辟易するモリアーティ伯爵家長子・アルバート。
孤児院から引き取ったある兄弟との出会いによって、世界を浄化するための壮大な計画が動き出す。
名探偵シャーロック・ホームズの宿敵、モリアーティ教授の語られざる物語の幕が開く──!!
「憂国のモリアーティ」を読んで
ゾクゾクする作品、ぽんと膝を打ち「そう来たか」と思わず言わしめる作品。
そういう作品に出合えると、本当に嬉しくて、世の中にはこんなに面白い作品がまだまだあるんだと喜ぶ――『憂国のモリアーティ』はそんな作品のひとつです。
題材は、多くの熱狂的なファンがいる「シャーロック・ホームズ」。
しかし、これはシャーロックが天才的な推理を披露し活躍する話ではありません。
主役はシャーロックのライバルとされるジェームズ・モリアーティなのです。
モリアーティって?
モリアーティとは探偵シャーロック・ホームズの宿命的なライバルとされる人物ですが、シャーロックの生みの親、コナン・ドイルが著した長編4作、短編56作の内、モリアーティの名が登場するのは僅か6作。
しかも、「ジェームズ・モリアーティ」とファーストネームで出てくるのはたった1作だけなのです。
なのに「ロンドンの半分の悪事、ほぼすべての迷宮入り事件はモリアーティの手によるもの」とシャーロックに言わしめ、このセリフで漸く人物説明がついた作品では、ホームズとモリアーティは共に滝に落ちて死んでしまいます。
それなのに、「ホームズの相棒といえばワトソン」と同じように「ホームズの宿命のライバルはモリアーティ」と定着したのはなぜか。
シャーロックは謎の追求に執着し、その頭脳はまさに天才と評判も高い、一方モリアーティもまた若くして数学定理を発見し確立するだけの知能を持つ人物、天才の中に潜む狂気を互いに感じ取っていた、そこが読者にとっては「おいしい関係」だったのではないでしょうか。
『憂国のモリアーティ』の主人公ウィリアム・モリアーティも原作の設定と同じに、わずか21歳の若さで教授として大学で教鞭を執る数学者です。
ウィリアム・ジェームズ・モリアーティと名乗っていますが、本名ではありません。
「彼」の本名は現時点(既刊10巻)では出てきていません。
彼は壮絶な幼少時の事件により、「ウィリアム・ジェームズ・モリアーティ」というモリアーティ伯爵家の次男坊の名前を名乗ることになりました。
この名前と身分を奪うため、わずか8歳の「彼」は、伯爵家の邸を丸ごと焼き、本物の次男坊ウィリアムとモリアーティ家の当主と妻、使用人たちを焼き殺します。
生き残ったのは「彼」自身とその弟ルイス、そしてモリアーティ伯爵家の長男、アルバートの3人。

なぜ「彼」がこのような行動に至ったかを知るには、かつてのイギリスの格差社会、絶対的な階級制度を知らなくてはなりません。
西洋の先進国は、恐ろしく階級社会です。
かつての多くは王室を頂点に、爵位のある貴族の上流階級、爵位はないけれど地主たちや裕福な商人などの中流階級、下働きや農民(小作農)などの労働者階級と明確に分かれていました。
実はさらにその下の最下層クラスも…。
いつの世もそんな社会の不条理に疑問を持つものや声を上げるものはいないわけではないのですが、歴史の中でそれらはいつも、声の大きなもの、力の強いものに踏みにじられて消えていくことのほうが多いものです。

アルバート・モリアーティは生まれながらの貴族の子、しかも長男でありながら(長男と次男以下は家庭内のステータスも雲泥の差です)、身分や財産のみが優遇される世の中に鬱々としていました。
自分も貴族でありながら、貴族などいなくなってしまえばいいのにとさえ思っていたのです。
若さゆえの清廉と、世の中の仕組みの歪みを認知する頭脳がアルバートには備わっていました。
そんな時、アルバートはボランティアに行った孤児院で「彼」とルイスの兄弟に巡り合います。アルバートは貴族の義務として、恵まれないこの兄弟へ施しの手を差し伸べようと考えました。
この兄弟をモリアーティ家の養子にしたのです。
しかしアルバートの考えは、ただ善良さゆえの行動ではありませんでした。
孤児院で「彼」がほかの子どもたちに貴族の尊さを説いている言葉の中に、貴族への憎しみと身分制度という枠を壊しかねない熱意を感じ取ったことこそがアルバートの狙いでした。
アルバートは自分の考えを「彼」の知能と合わせ、自分の血のつながった家族を殺してまで、「彼」に身分を与え、アルバートと「次男ウィリアム」、そして養子の弟ルイスという3人の兄弟で社会の変革を考えたのです。
重ねて言いますが、そのためにアルバートは、「彼」とルイスと共謀し、自宅への放火と殺人を実行したのです。
アルバートは名実ともに長男で正当な伯爵家の後継ぎですから、成人した後、晴れてモリアーティ伯爵となりました。
イギリスの貴族制度では長男以外には財産はびた一文渡りません。
次男となった「彼」すなわち「ウィリアム」はその優秀な頭脳を活かし、数学者となります。
しかし、アルバートにせよ、ウィリアムにせよ、それは表の顔でしかなく、彼らモリアーティ3兄弟は裏では、主にウィリアムの頭脳で考え、アルバートの社会的地位と資産を使って貴族に制裁を与えることで、社会の改変を行っていくのです。
彼らは3人ともミドルネームを”ジェームズ”と名乗り、つまり、正典の「ジェームズ・モリアーティ」という役割を、この作品で3人がシェアするわけです。
シャーロック・ホームズではなく、モリアーティが正義の味方?
では、シャーロック・ホームズはどうでしょうか。
シャーロックもワトソンも、ほぼ正典(コナン・ドイルの著作のこと)通りの設定で登場します。
しかしこの作品ではあくまでも主役はモリアーティ。ホームズはわき役です。
モリアーティ兄弟が殺人を強行してでも世界をよくするためにはやむを得ないというスタンスと比べると、シャーロックは“善”の側に寄っている感じです。
口ぶりは乱暴ですが、最後には人の命を救うことを優先するのがシャーロック。
そう言うと、やはりモリアーティは悪者でシャーロックが正義の味方のように思えますが、モリアーティ兄弟の正義は「必要悪」で、自分たちがその必要悪となることです。
つまり毒を毒で制す、ですね。
腐敗した貴族社会でのさばる輩たちは、身分制度の悪習で何をしても許されると高をくくっている、これをモリアーティたちは成敗するわけです。
しかし、成敗といえば聞こえはいいものの、やっていることは顔を隠して殺人を強行しているわけで、いずれ、そのことが善良なる市民たちから批判を受けることになっても彼らはその罪を免れようとは思っていない。
モリアーティ兄弟は自分たちこそ大罪を重ねる犯罪者であると断罪した上で、自分たちの行いを死でもって贖うことを決め、身分制度から解放された未来を創ろうと決めているのです。
これは、現実の世界では非常に危険な「正義」でテロリズムと変わりありません。
しかしフィクションであるからこそ許されてもいい一種のピカレスクロマンとして、果敢にも「シャーロック・ホームズ」という巨大なテーマに臨んだ作品だと言えると思います。

そして、シャーロックとワトスンだけでなく、この『憂国のモリアーティ』には、この時代の、あるいはイギリス、ロンドンといった場所の設定を活かしたエピソードを繋げてきます。
たとえば、”切り裂きジャック”。
あまりにも有名なロンドンの貧民街で起こった連続殺人事件ですが、ここにもモリアーティたちが戦うべき腐敗構造があり、更にはそもそもの”切り裂きジャック”の二つ名を持つ人物を登場させ、共に”切り裂きジャック”の名を騙る者たちに立ち向かいます。
あるいはイギリスの諜報機関MI6といえば、これまた有名な”ジェームズ・ボンド”。
実際にMI6の名前が歴史に登場するのは第一次世界大戦が始まってからですが、そこは秘密組織、いつから実際にあったかなんてところはフィクションとして、MI6とジェームズ・ボンドもこの作品には登場します。モリアーティ側として!
もっと面白いのは、なんとフランス革命までこのストーリーにつながる因縁があるという展開。
シャーロックの兄、マイクロフト・ホームズがMI6側としてモリアーティ兄弟とも密接なつながりを持つのですが、フランス革命に関わる秘密もマイクロフトは握っています。
多くの人が聞いたことのある人物たちが次々モリアーティ陣に加わっていき、モリアーティ・プランをひとつずつ着実に前へ進めていくわけです。

シャーロックvsモリアーティ、結末は見えている?
これを書いている現在はまだ連載中ですが、すでに作品の終焉の展開はわかっています。
というのも、作品の冒頭が滝に落ちんとしているウィリアムが「僕は間違ってなどいない…悪魔は貴様だ!!シャーロック!!!」と叫ぶシーンから始まるからです。
これは正典でシャーロックがモリアーティとともにライヘンバッハの滝に落ちて姿を消すストーリーを引いていますが、正典では実際に滝に落ちるところの描写はありません。
ですからなぜモリアーティと滝などで会ったのか、どういう会話を交わしたのか、どういう経緯でふたりは滝へ落ちたのか、いやそもそも本当に滝から落ちたのか――。
少なくともこの作品のラストあたりでは、この冒頭のシーン、ウィリアムとシャーロックが滝を前に争うことになるのでしょう。
なお、シャーロック・ホームズを生死不明の展開にすることでシリーズを終わらせたコナン・ドイルに批判が寄せられ、やむなくドイル描くところのシャーロックは数年後、しれっと帰還することになっています。
もしもこの部分までもが『憂国のモリアーティ』で展開されるのであれば、ウィリアムが、モリアーティ兄弟が、いかに階級社会の腐敗を憂いていたのかを、滝から帰還したシャーロックが語ってくれるといいなあと個人的には期待するのでした。
作品のクレジットとして、「原案:コナン・ドイル」とあるので、モリアーティとシャーロックの行く末はこのようにおおよそ予想はつくわけですが、そこへ至るまでのふたりの闘いや、それぞれの葛藤は予想もつかない展開で見せてくれるものと思います。
期待を裏切らない、どころか、シャーロック・ホームズのパスティーシュ作品として漫画ではピカ一の面白さだと思います。
ストーリー
画力
魅力
笑い
シリアス
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「憂国のモリアーティ」を読んだ人におススメ

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