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「きみを死なせないための物語」吟鳥子の感想!進化した人類の物語

宝島社『このマンガがすごい!2018』オンナ編の第7位にランクイン。

「生きる」という命題にせまる物語のような気がします。

心臓を掴まれるような、切なさに満ちている物語です。

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「きみを死なせないための物語」あらすじ

宇宙に浮かぶ都市文明「コクーン」。

国連大学の学生で、幼なじみのアラタ、ターラ、シーザー、ルイの4人組は、宇宙時代に適応した新人類“ネオニテイ”のこどもたちだった。

ある日、彼らは歓楽街の路地で緑の髪の少女に出会う……。

Amazonより引用

物語の世界と用語をいくつか以下に紹介を。

・ネオテニイ
人類の中に生まれた超長命の人類。
数百年生きるそうで、年齢が20歳で小学生程度の外見、40歳でようやく成人したくらいの外見。

・ソウイチロウ
人類最初のネオテニイ男性。主人公のアラタの直系の高祖父。

・F3、F4など
ソウイチロウの遺伝子を引く子孫を数える階層。
ソウイチロウの子世代がF1、孫世代がF2・・・と続く。
ソウイチロウの遺伝子を受け継いでいるからといって必ずしもネオテニイになるわけではなく、ネオテニイだから頭脳優秀とは限らない。

・コクーン
地球に住めなくなった人類が形成する地球外コロニー。

・パートナー契約
個々の人間は、互いに「契約」がなければ話しかけることもできない。
代表的なものは肉体の成長と年齢に応じて結ばれる第一契約(キッズパートナー)、第二契約(キッシングパートナー)、第三契約(サード契約とも。死ぬときにそばにいることができる関係)など。

・恋愛
コクーン社会では人口が管理され、すなわち生殖についても調整がなされており、恋や愛といった感情はこの世界では「猥雑なもの」と考えられている。

・天上人(テクノクラート)
コクーン社会を管理する科学者の組織。優秀な人材の中から選定。
長はソウイチロウ。

・ダフネー症
細胞が光合成をするように変化する病。
長く生きられず、16歳ほどで亡くなってしまう。特徴は緑の髪と緑の瞳。

少女漫画誌のSF漫画と侮るなかれ、本物の宇宙工学教授にもアドバイスを受けて緻密な設計がなされている物語です。きちんとした定理に基づく「真理」が語られていることに気づいたときからワクワクがとまりません。

ヨンダリ
ヨンダリ
少女マンガSF!

出典:きみを死なせないための物語

「きみを死なせないための物語」を読んで

生きることも残酷、死ぬことも残酷な世界

主人公のアラタは最初のネオテニイ・ソウイチロウ直系の玄孫でネオテニイ男性。

そして、アラタがキッズパートナー契約を結んだ、ターラ(女)、シーザー(男)、ルイ(男)の3人もそれぞれソウイチロウの遺伝子を受け継ぐF3で、4人はネオテニイの中でも人々から注目を浴びている一団です。

20歳のときにルイが愛した「祇園」という名の女性は、ネオテニイとは対照的に短命なダフネー症患者。

キッズパートナーの3人に反対されながらのルイの求婚を、祇園は受け入れますが、結婚式の日、地球の姿をコクーンの外に見ながら自殺してしまいます。

そのことで心に深い傷を負ったアラタやルイ、そしてシーザーやターラ。

コクーン社会では医学が発達してなかなか死に至ることはないようで、そこで「リストイン」という制度で寿命がコントロールされます。

つまり「死の予定」が組まれ、薬品で強制的に死を与えられるのです。

リストインの理由は顕著。人々は日々、コクーンの中に無数に設置される監視カメラで行動をチェックされ(なんと、個人の居室の中も!)、人類への貢献度が低いと判断されるとリストイン。

ダフネー患者も、そもそもは短命なのですが、この制度の例外ではありません。また、反社会的な行動や思想の持主もリストインの対象になります。

たとえば、ジジと同じダフネー患者の少女は、ある科学者の小児性愛の対象にされてしまいます。

しかしこの科学者が社会的に罰されるのではなく、ダフネーの少女のほうが科学者に悪影響を与えたという理由で理不尽にもリストインされます。

また、アラタの叔父で、ネオテニイの麒麟は、研究中の事故で記憶障害となり、ネオテニイであっても研究者としてはもう役に立たないとしてリストインされます。

そんな制度は実は、アラタの高祖父であるソウイチロウが考え出したものでした。ソウイチロウはアラタの高祖父ですが。まだ存命中です。

ネオテニイがなぜ生まれるようになったかは、今のところ(既刊6巻)触れられていませんが、同じ血を引く兄弟の中でもネオテニイとそうでない子どもでは寿命も成長速度も異なります。

アラタはネオテニイですが、アラタの弟は普通の人類なので、どんどんアラタを追い越して年を取っていきます。

「あー、こいつ、すぐ大きくなって、あっという間にしんじゃうなー」とアラタは弟について言っています。

また、アラタを可愛がってくれた曾祖母がリストインしたとき、アラタが死に臨む曾祖母の病室へ行くと、そこには、曾祖母の実の父であるソウイチロウが若々しい姿のまま、「自分よりもはるかに年老いて死んでいく娘」の手を握って見送っていたのでした。

誰もに必ず訪れる「死」。しかし明らかに長さの違う寿命のいかに残酷なことか。

自分より早く死んでいく子や孫、あらかじめ短くしか生きられない病、そして厳格な生命管理ゆえ、一人生まれるために誰かが死ぬ世界。

自分より先に逝ってしまう娘の手を握りながら、いつまで生きるのかわからない自分の命を、ソウイチロウが恨みに思わないわけはなかったと思います。今後、必ずソウイチロウの背負わなくてはならなかった孤独についても描かれるでしょう。

ターラは、同じネオテニイのアラタに、「死ぬとき、最後まで手を握っていて」と言います。

これが第三契約なわけですが、しかし、必ずどちらかはこの世にひとり残されるわけですから、見送る悲しみに、残る孤独――生の残酷さが淡々と描かれていることに胸が締め付けられます。

出典:きみを死なせないための物語

知らないことは幸福か

アラタの曾祖母は、アラタに超人的な記憶力があることに気づき、自分が幼いころから読んでいた書物をすべてアラタに与えます。

しかしそれらは「禁書」ゆえ、読んで記憶したらすべてを焼いてしまいなさい、とアラタに命じました。人類が遠くへ行くための書物は禁書になっているから、と。

アラタたちは「趣味」といってロケットを個人的に建造しています。そして偶然知り合った工学系の天才的な頭脳と技術を持つリュカという男性に、ロケット造りを手伝ってもらうのですが、ロケットの航法上の計算に隠された秘密があることにリュカは気づいてしまいます。それは、地球とコクーンの引力から離れ、宇宙に飛び出すための公式をコクーン人類
が知らないように天上人が管理していたのです。

リュカの気づきは反社会的思考と行動とみなされ、リュカは突然のリストインで殺されます。

生き延びるために地球から脱してきたであろう人類が、コクーンからは出ていけないように仕向けられた世界。

リュカは生前、アラタの叔父の麒麟が事故以前に書いた論文を絶賛していました。

その論文が示していたことと、アラタが曾祖母から書物によって与えられた「禁じられた知識」から、麒麟の事故すらも仕組まれたものだったのではないかとアラタは考えます。

そこでアラタは天上人となる道を選びます。

天上人が知っていること、「神」が知っていること、それらを知らされない人たちのこと、そしておぼろげながら自分は「何か」――おそらくは大事な人たちを「死なせないため」にできることがあるのではないかと思ったからでしょう。

真反対の新人類が生まれた意味は?

天上人となることと引き換えに、アラタはふたつのものを失います。

ひとつはダフネー研究、もうひとつはターラやルイとのキッズパートナー契約の解除でした。

天上人となることでダフネーたちを生かすための研究から手を引いたアラタをターラやルイは許せなかったのです。

ダフネーの研究所は閉鎖され、アラタが可愛がっていた被験者のジジもほかのダフネーたちと共にリストインされますが、ターラ、シーザー、ルイがダフネーとジジの救助に立ち上がります。

シーザーはアメリカ大統領の息子で、富と権力を背景に持ち、ルックスにも恵まれたネオテニイ、と全てを持って生まれたかのような人物です。

それでいながら常に父の都合で行動を決められてきたシーザーの心の中は、ずっと空虚でした。

唯一、幼いころに自覚したルイへの思慕には長らく固執していましたが、ルイは祇園の自殺後、シーザーの愛情に心救われたものの、自分はゲイではない、とシーザーの求愛を拒みます。

そんなシーザーの渇いた心を潤したのがジジでした。自分は間もなく死ぬのだから、助けてもらってもシーザーに何も恩返しできない、と泣くジジに、シーザーは「大人は子どもを助けるのに何も求めないものだ」と言います。

ジジはシーザーに、死ぬ時まで手を握っていてほしい、と言いました。ジジのあまりにもささやかな願いに、シーザーは一瞬で心が満たされたのでしょう。

第三契約を結ぼう、と告げるのです。かつてはダフネーの祇園と結婚するルイに猛反対したシーザーが。

シーザーとジジの契約を祝いに集まるターラとルイ。

そこへ突然、アラタがやってきます。シーザーに「巻き込まれてほしい」と言って。

出典:きみを死なせないための物語

ダフネーたちのDNAに刻まれた記憶

ジジは、ダフネーはみなそれぞれが『誰も知らない風景』を持っていると言います。

ジジのそれは、「青くて、青くて、ふかあい……まだなにもない、ぼこぼこ、ぶつぶつ、ごうごう、ごおお、ごおお」という情景なのだ、と。

打ち明けられたターラは戸惑います。まるで太古の地球の情景。それは夢ですらターラには見たことのないものでした。

地球という青い惑星を失い、コクーン社会に逃げてきた人類。かつて大地を覆っていた緑が失われた代わりのごとく、人類はまるで植物に変化するような奇病を得たわけですが、ダフネーたちが地球の記憶ともいうべき情景を知っているということは、恐ろしく長命なネオテニイが新人類なのだとすれば、ダフネーもまた別の役割を持つ新人類だということを意味しているのではないでしょうか。

アラタはシーザーを連れて麒麟に会いに行きます。かつて麒麟を事故に導いたかもしれない麒麟の論文について問うために。

アラタたちは天上人に禁じられた科学の真理を取り戻し、コクーンから脱出できるのでしょうか。

そしてそれが叶った先の未来、アラタたちはどう生きていくのでしょうか。

きみを「助ける」でもなく、「救う」でもなく、「死なせない」物語というタイトルには、とてもやるせない思いが込められている気がしました。

しかし物語の先には、希望を意味するタイトルになってくれると信じたいです。

出典:きみを死なせないための物語

ヨンダリ
ヨンダリ
パートナー制度っていう法は面白いよね

ストーリー

画力   

魅力   

笑い   

シリアス 

ヨンダリ
ヨンダリ
読む人を選ぶ漫画かもしれませぬ・・・

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