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「人間交差点~ヒューマンスクランブル~」オリンピックごめんね

2020年は2回目の東京オリンピックが開催されます。

1回目は1964年、今から56年前に開催されています。

漫画の話なのになぜいきなりオリンピック?とお思いでしょうが、「人間交差点~ヒューマンスクランブル~」からは絶対に欠かせない話で、しかもこの1作品だけを読んだら「人間交差点~ヒューマンスクランブル~」という作品の根幹が理解できるという作品があるからです。

「人間交差点~ヒューマンスクランブル~」とは

1980年(昭和55年)から1990年(平成2年)までの間小学館ビッグコミックオリジナルで連載された1話完結型の名作漫画です。

「人間交差点~ヒューマンスクランブル~」という題名の通り「人間模様」を軸として様々な人間たちのドラマが繰り広げられます。

作画の弘兼憲史と言えば「島耕作シリーズ」で有名な漫画家ですが、島耕作の連載開始は1983年と当時はほぼ無名な漫画家でした。

原作者の矢島正雄もデビューしてすぐという異例の抜擢であるコンビが昭和を代表する名作を生みだしたのです。

ヨンダリ
ヨンダリ
まさか耕作が会長になるとは!

「人間交差点~ヒューマンスクランブル~」とオリンピック

そんな「人間交差点~ヒューマンスクランブル~」にはオリンピックを題材とした話が5作品あります。

「人間交差点~ヒューマンスクランブル~」2巻
あの日川を渡って

「人間交差点~ヒューマンスクランブル~」4巻
さかな
幻のモスクワオリンピックに水泳で出場予定だった女の現在

「人間交差点~ヒューマンスクランブル~」8巻
遥かなる
ロサンゼルスオリンピックをどうしても見たい女が犯した罪とは

「人間交差点~ヒューマンスクランブル~」23巻
かもめ
日本と韓国の歴史を詳しく知らない男がソウルで出会った女とは

「人間交差点~ヒューマンスクランブル~」25巻
…一里塚
オリンピック代表選手だった女が行方不明に

オリンピックを背景として描かれた作品として括らず「人間交差点~ヒューマンスクランブル~」の中でもこの作品だけを読めばいいというほどの名作があります。

「人間交差点~ヒューマンスクランブル~」を読むならこの作品

1964年の東京オリンピックを背景とした「あの日川を渡って」

主人公は片田という若手刑事。年齢は全編を通して出て来ませんが描写から20代後半と思われます。

舞台は単行本の初版発行が1981年11月なので連載時と考えると1980年または1981年です。

夜半に張り込みをしている片田へ相棒の老刑事岡村が持ってきた電報には「ハハキトク」の文字がありました。

岡村は張り込みをしている男には殺人事件の容疑がかかっているが、直接の証拠がないのでダフ屋としての別件逮捕をしようとしているので遠慮せずに自分に任せてすぐに帰ってやれと言いますが、片田は張り込みをやめようとはしません。

ダフ屋も立派な犯罪です。
僕は刑事として犯罪に重い軽いはないと信じています。

出典:「人間交差点~ヒューマンスクランブル~」2巻

片田の体験した重い犯罪

片田は父親を早くに亡くし、母親きぬえが女手一つで育てていました。

今では「シングルマザー」と言われ片親のままで子育てをすることも珍しくはありませんが昭和30年代に女性が一人で子供を育てるときに選べる職業は多くはありません。

美輪明宏が「ヨイトマケの唄」を発表したのも1964年(昭和39年)

オリンピックの年、高度成長で華々しい光の影で庶民は泥にまみれて働いていたと歌われています。

作品中にも工事現場で働く母親の姿が描かれています。

女性が肉体労働で得られる賃金がいかほどでしょうか、母子二人が日々を暮らしていくだけで精一杯ではなかったのだろうかと思われます。

そんな貧しい生活の中できぬえが東京オリンピックの開会式の券を仕事の仲間からプレミアなしで手に入れたと片田に見せます。

母子が一緒に外に遊びに出るという事もなかった片田親子が喜んだのは当然です。

そしてきぬえの喜びは国を挙げてのイベントでプレミアがつくほど入手困難な東京オリンピックを見られるためではなく、普段どこへも遊びに出かけることのできない片田と一緒に出かけて東京オリンピックを見せてやれることが出来るからでした。

当日、父親が亡くなって初めて川を渡って向かった先の国立競技場で入場券が偽物だと言われます。

出典:「人間交差点~ヒューマンスクランブル~」2巻

きぬえの体験した重い犯罪

失意のまま地元に帰ったきぬえは、その日以来二度と川を渡ろうとしませんでした。

作品中にはきぬえが川を渡らない理由は書かれていません。

きぬえはなぜ川を渡ろうとしなかったのか。

きぬえはダフ屋に偽物の入場券を売りつけられた犯罪被害者ではありますが、その実、片田に犯罪を犯してしまった加害者でもあったのです。

片田はもちろん読者の誰一人としてきぬえが加害者だとは思ってもいません。

しかし、あれほど楽しみにしていたオリンピックを自分が騙されたことで片田に見せられなかったという心中はどれほどだったのか、それがわかる描写としての「川を二度と渡らない」だったのです。

贖罪のために川を渡ろうともせず、川の向こうで独り立ちし働く片田からの仕送りも拒否して一人で暮らすきぬえは何をしようともわが子に絶対に許されたとは思えないものだったのでしょう。

それほど犯罪というものは重いのです。

出典:「人間交差点~ヒューマンスクランブル~」2巻

また作品中の時代の背景とも言えますが、きぬえは川の向こうは自分たちの居場所ではないという現実を突き付けられました。

日々を朝から晩まで懸命に働いて生きていても贅沢な暮らしができるわけでもないのに、川を渡った先にあるオリンピックというイベントの煌びやかさなどを見て、自分は作る側、向こうはそれを楽しむ側と確認したのです。

「あの日川を渡って」忘れられない名セリフ

早朝に容疑者が姿を見せそのまま確保し、片田はきぬえの元へ帰ります。

出典:「人間交差点~ヒューマンスクランブル~」2巻

20年以上も心の中で片田に謝らなければと思いながら生きていた母親きぬえ・・・その姿はただただ哀しいのです。

ヨンダリ
ヨンダリ
目からなんか出てきた

片田という刑事が意味するもの

「人間交差点~ヒューマンスクランブル~」は1話完結の作品ですが、片田刑事が主題として描かれている作品が8作品登場します。

「人間交差点~ヒューマンスクランブル~」2巻
あの日川を渡って

「人間交差点~ヒューマンスクランブル~」2巻
消えた国
電車内でガソリンを使った爆破事件があり意外な犯人とは

「人間交差点~ヒューマンスクランブル~」3巻
片隅
犯罪の被害者と加害者の複雑な関係

「人間交差点~ヒューマンスクランブル~」5巻
動機
通り魔殺人事件犯人の身勝手な理由

「人間交差点~ヒューマンスクランブル~」13巻
玩具の車輪
片田の高校時代の同級生がヤクザに

「人間交差点~ヒューマンスクランブル~」21巻
炎のごとくに
若者の生き辛さの理由

「人間交差点~ヒューマンスクランブル~」25巻
…一里塚
オリンピック代表選手だった女が行方不明に

「人間交差点~ヒューマンスクランブル~」27巻
朽ちかけた斜塔
片田の恋人が殺害されるがその意志を継ぐ人が

「人間交差点~ヒューマンスクランブル~」としての最終話にも片田が出てきます。

10年連載の続いた「人間交差点~ヒューマンスクランブル~」ですが元号が昭和から平成に替わり人々の気持ちや生活も変わって当初の熱のある話は失速していきます。

1984年のロサンゼルスオリンピックは「商業オリンピック」と言われ、その後はオリンピックという商品に莫大な利権が絡む大イベントとなりました。

その後のバブル景気の中では今まで足元を見て暮らしていた人々がみな頭上だけしかみない、そんな風潮になっていきます。

そんな時代の移り変わりの中、片田という熱血な刑事が最終話で出てくるというのも「人間交差点~ヒューマンスクランブル~」の連載を終了させることについての意味があったのだと思います。

平成も終わり、令和という時代です。

その令和に昭和を知らない世代以上に昭和を生きてきた世代に、もう一度あの時代の名作を読み返して欲しいと思います。

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ヨンダリ
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